『クラゲの骨塚』こぼれ話

 『クラゲの骨塚』こぼれ話

こんにちはこんばんは、朝香です。
今回は前々から既刊でもやりたいな〜と思っていた、読んでも読まなくても問題ない同人誌こぼれ話まとめをやってみようと思います。
こちらはその本でやりたかったことや小ネタの説明など、これを読んでも読まなくても本編を読むうえではあまり問題のない(たぶん)内容の語りまとめです。
かなり長くなってしまいましたので、いやもう暇すぎてヤッッバというときにでも読んでいただければ…裏話系の副音声と思っていただければ幸いです。

*装丁について*



今回とくにうまくはまってくれたな〜と思っているのが、表紙の紙と疑似小口染めです。

もともとは別の用紙の使用を想定していました。そんなときちょうどその想定していた用紙を含む複数の用紙で印刷見本をする機会があり試したのですが、今回の表紙と同じ絵で試したところ予定していた用紙だと完全に「思ってたんとちがう!!」になってしまいました。

これは困ったぞ…となっていたところ、試した用紙の中で今回実際表紙に使用した紙がとてもよかったので「お、お前だー!!」となり急遽変更しました。本当に試してみてよかった…。
本来ミランダよりもラメが強い紙なのですが黒い部分はラメが完全に消えたため、そこまでギラギラした感じもなく、そしてなによりこんっなに好みの手触りだとは思っておらず、そこにもっとも興奮しました。ざらっとした手触りのある用紙が好きなので、思わぬ副産物というか僥倖でした。

そして疑似小口染めですが、所持している同人誌の中でひとつだけ同じように疑似小口染めをしているものがあり、ええやんこれ…!となり今回急遽組み込みました。
ふつうの小口染めだと手に持って読んでいるとき、ページを斜めにもっているほう(伝わるだろうか…)は染めの色がでないと思うのですが、疑似小口染めの場合は読みながらでもその面が黒くなり、そっちのほうが求めているものだったのでそれがうまくいってくれてよかったです。

最近作る本では奥付のところに使用した表紙・本文・遊び紙の用紙名を記載しているので、よろしければ印刷見本としてお使いください。


*この本でかきたかったところ*

この本でかきたかった(やりたかった、させたかった)ところは主に
  • 水族館散歩をするふたりに、水中にいる生き物にまつわる言葉で言葉遊びをさせる

  • ボロさんの右腕についての話

  • 負傷した門を病院まで見舞いに行くボロさん

  • 門を救うボロさん

の4点です。

●水族館散歩をするふたりに、水中にいる生き物にまつわる言葉で言葉遊びをさせる

私が彼らにさせたいやり取りのうちのひとつに「彼らの言語で話す」というものがあります。
スピンオフの夜行ズのそれとはちがい、会話の中で言葉遊びをするという感じです。そのネタや背景、意味を理解していないと返せないようなやり取りをしてほしい。

たとえば以前描いたこちら
【遣らずの雨】
帰ろうとする人をひきとめるかのように降ってくる雨。
出典:goo辞書

晴れているにも関わらず、門が帰ろうとした途端に降ってきた雨。
門が「天気雨(狐の嫁入り)」か?というのをわざわざ否定し「遣らずの雨」だろとさらっと言うボロさん、一拍遅れて気づく(その意味を理解している)門、というのが描きたかった話です。

こういうやり取りをふたりにさせたい!とつねづね思っているので、今回舞台が水族館ということもあり、水と関係ある生き物が出てくる言葉を使わせたかったので散りばめました。


以下は今回の本に入れた、生き物関係の言葉について。

【俎上の魚】
運命を相手に握られている状態のたとえ。まな板の上の鯉と同じ。

【逃した魚は大きい】
手に入れそこなったものは惜しさが加わって、実際より価値があるように思われるものである。
今回の使用場面ではもともと自分のものだったので(ジンベエザメ)手に入れそこなったわけではありませんが、使いたかったので使いました。

【蟹の横這い】
はた目には不自由に見えても、自分にはもっとも適していること。また、それぞれが自分の特色を生かした才能を持っていることのたとえ。

そうえいばタカアシガニは横歩きではなく、前にそのまま進めるらしいです。すげぇ!!
あとこのあいだデパートの鮮魚コーナーで売ってました。鮮魚コーナーで見るタカアシガニちょうでかい。売却済みでした。

【及ばぬ鯉の滝登り】
門の「鯉として登ることもおこがましいいうのに」の元ネタ。
どんなに努力しても見込みがないこと、いくら希望しても不可能なことのたとえ。「鯉」と「恋」をかけて、身分などの違いから叶う可能性のない恋にいう場合が多い。

【磯の鮑の片思い】
門の「ワシなぞせいぜい、磯の鮑の…」の元ネタ。
自分が慕っているだけで、相手にはその気のない恋のこと。アワビが二枚貝の片側だけのように見えるところから。

【蟹の自切】
「自切」は動物がみずからの身体の一部を切断する現象。通常は防衛反射、逃避反応の特殊な例として、外敵に襲われた場合、または身体の一部に重大な傷害を受けた場合におこる防護行動。
生物としてのトカゲがおこなう尻尾切りと同じ意味で使用しています。

【海月の骨】
あるはずのない、ありえない物事のたとえ。また、非常に珍しい物事のたとえ。
クラゲには骨がないことから。

【生きて海月の骨いためず】
長生きしていれば、めったにはない良い時節に巡りあうことができるということ。

出典&参考:コトバンク、goo辞書

入れたかった生き物関係の言葉はここらへんです。
そのほかに仕込んだ?言葉としては
  • 「すくい上げられた」の「すくい」の部分を「掬い」「救い」両方あてはめられるようにひらがなにした
  • ボロ「キシャンを引き上げるにはねえ骨が折れるわ」→直前の「海月の骨」とボロさんのない右腕(の骨)にかけて
  • ボロ「まだ育ち足りんか?」→「寝る子は育つ」から
などなど…。
もっとふたりにいい感じの言葉を使って会話をさせたい、作り手の教養が乏しい…ッ!(もうこんな「いい感じ」とか言ってる時点でアウト)


●ボロさんの右腕についての話

私が創作するふたりの話では、ボロさんの右腕の過去について固定していません。
なので元からないのか、どこかの時点で失くしたのか、失くした場合どのような形で失ったのかなどは作品ごとに設定を変えたりしています。

ですがだいたい共通しているのは「門はボロさんの右腕の過去について知らない」という点です。
これはおもに私に都合がいいからですが「御大が(から)話さないなら自分から訊くことはしない」がうちの門の共通思考です。

今回の本は「かつて右腕はあったが、何かのタイミングで失った(しかも自切した)」パターンのお話でした。

個人的に自切の場合「右腕を切り捨てなければ命を落とすような場面で失った」or「號奪戦で失った」の2パターンを考えています。
自切で失った場合(かつ対戦相手を屠った場合)はボロさんに「手向けてやったのよ」ってぜったい言わせたいし、號奪戦ならば「腕の一本くれてやるからキシャンの號儂によこせ」とも言わせたい…。


●負傷した門を病院まで見舞いに行くボロさん

これは門ボロネタ帳にかっっなり初期のころからあったもののひとつで、今回ようやくネタ帳ビンゴのひとつを埋められました。なんやこのビンゴ一生終わらん。

門が箕輪との戦いのあと病院で治療を受けていたとして、もしかするとボロさんなら御自ら見舞いにくるかもしれない。少なくとも古参や立会人の中ではもっとも見舞いに行くイメージができる。ありうる。してほしい…!!(必死)という願望から生まれたネタです。

ボロさんが見舞いに来ていたことを、この本の門は意識がないため知りません。でも知っている(意識があり起きていた)パターンもいいと思います。そしてその場合たぶん狸寝入りなのがバレており、復帰して再会したとき「よう寝たか?ずいぶんでけぇ狸じゃったの」みたいな感じで笑われる。アァァ~~~~ッッやっぱりバレとるやないかい!!となる門。ウ~~~ン、100万回見た。

今回の門は意識がないためボロさんが見舞いに来ていたことも、言葉をかけてくれたことも知りません。知りませんが、もっとも己に関係のある「自分の名前」をあの声で呼ばれたことはなんとなく覚えているというか聞こえていたというか。
その声が呼び水となりこのあと門の意識が回復したのだとしたら、とても私に都合がいい。まるで34巻の表紙のよう。

「物言わぬキシャンはつまらんかったよ」も、見舞い歴のあるボロさんに言わせたいセリフでした。


●門を救うボロさん

い つ も の 。

いつものやつです。「とりあえずビール」に匹敵するほどのとりあえず。
これは以前の怪異本でもやりました。ボロさんに門を救ってほしい、その系譜。

基本的にはボロさんが門を救う話がとくに好きなのでしがちですが、逆パターンもたまにあります。ありますが、こっちは明確に「救う」ほどまではいかないものが多いです。

門も「御大を救った」とは思っていないし、ボロさんも「門倉に救われた」とは思っていないし、私も「門がボロさんを救った」とは思っていません。(私も?)

たとえば大昔に描いたこちら


幻肢痛持ちのボロさんの意識をごまかすために門が言った言葉。

ここにいる3人(作者混入)は誰も「この言動で門がボロさんを救った」とは思っていません。救うなどおこがましい。そもそも助けなど求められてない。
そしてボロさんはボロさんで、救われたとも思っていない。でもたしかに気は紛れたし、こんな老いぼれを気にかけ、いまさらまるで口説き文句のような言葉を本心から吐く若造のこと、悪い気はしない。

そういえばこの間ふと思ったのですが、門がボロさんに伝える好意ってガチ感あっていいなと思いました。
ひと回りもふた回りも年上かもしれない大先輩、老君、追いかけても追いつきはしない、敵いはしない、その人相手にあの門が伝える好意。
相手が相手ゆえより一層ガチ感があるなと…労働中にハッと気づいてヒッッとなりました。労働中に気づくようなことではない。


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*その他雑記*

メインで入れたかった箇所は上記ですが、既刊と絡めて気づいたことなどがあったので紹介します。

共通する好みの流れ

そういえば今回の新刊で入れたシーンと同じ流れをかつて別の本でもしたな、これ癖なんだなと気づきました。
それは「門がボロさんのしたそうなことを、あくまで「自分がしたいから」という体で提案し誘う」というもの。


これは門がボロさんを水族館散策に誘う直前のシーンです。
門はボロさんが展示されてる生き物のようすを興味ありげに見ているのを見てから、ボロさんを散策に誘っています。
そしてその後ボロさんを水族館散策に誘うのですが、




あくまで「自分が館内を見たいから(己の我儘で)」という体で誘っているというのがポイントです。
このパターンは以前発行した「卒哭忌モラトリアム」でもしました。

門はボロさんの「今ならまだ人跡未踏の世界かの」から、ボロさんがそこに行きたそうにしている/興味があることを汲み取り「こちらからの誘い」という形に変換し提案しています。

このパターンならボロさんは門の言葉に「ええよ」と言うだけでいい。許可するだけでいい。願わなくていい、請わなくていい。

うまく説明できないのですがどうもこれも私の、門にボロさんに対してしてほしい癖というか、なんかそういうやつみたいです。なんかそういうやつ!?

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イメージソングの話


本を創る際、なにかこのネタに合うようなイメソンはないかな〜と探すのですが、あるときもあればないときもあり。

『卒哭忌モラトリアム』では日食なつこさんの「泡沫の箱庭」がバッッッッチリはまって抜けなくなりました。けん玉の玉の穴に入って抜けなくなったビー玉みたいに(経験談)
歌詞全般がヤバいのは言わずもがな、かつタイトルが〜〜!!エッッ!!!??もし庭にまつわる話の短編集をつくるときがあれば確実にタイトルに使いたい言葉です。

そして最近リリースされた日食なつこさんの「やえ」の

「話すことはないけど会いましょうって春の宵」
「行くあてもないまま歩きましょうって春の宵」

の箇所が、卒哭忌モラトリアムのラストで「ようやくなんの理由付けもなく「ただ会いたいから会いたい」と言えた」門と合いすぎて、かつこういうのがめちゃくちゃ好きなため、ウッッッワ、エッちょっ…ェッッ!!!!?!??!?!となりました。


今回の本ではここまで合うようなこれといったイメソンはないのですが、しいていうならTHE BACK HORNの「夏草の揺れる丘」にある

「何度でも歩き出せる 何処までも行ける気がする」

の部分を「また歩き出せると」「どこまでも往けると思ったのだ」あたりを書いてるときにイメージしていました。

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*まとめと今後の活動について*

とりあえずいまのところこの本のこぼれ話はこれくらいです。もしまたなにか思い出したら追加するかもしれません。

この本は本来、去年の11月のライアジに間に合えばいいな〜というつもりで描いてました。まぁふつうに無理でした。8月終わってから11月までにこれを仕上げるようなスピードを弊社はお持ちではない。

ですがそのつもりではじめていたので、最後失速したとはいえ完成したのは今年の1月?かそこらで、完成から実際の入稿まで期間があいたため、久しぶりに本を作った気がしています。
1月や3月あたりにライアジがあったらちょうどよかったかもしれませんが、今回早めに原稿が仕上がったおかげでよく食うちゃんみだのほうも出せたし、次の今年の8月用のものをすこし前倒しで進められているので、雀の涙ほどの余裕があり助かる。

と思っていたのですが、次の本で私がやりたい装丁やイベント搬入を考慮すると締切がほぼイベントの1ヶ月前レベルくらいになるようで、雀の涙も枯れそうです。でもだからこそ前倒しでとんとんというか、いつもどおり(の修羅場)というか…。


8月インテのライアジにて発行予定の新刊は、若ボロさんの話です。



あたりまえですが若ボロさんのビジュアルは完全にうちの捏造なので、もうもはやオリキャラ。(若)ボロさんメインの本なのにぜんぜんボロさん描いてない。おかしい、こんなはずでは…。と思いながらも進めています。

ネタとしては若ボロさんネタで前々からやりたかったものなので、万が一スピンオフなどで公式若ボロさんビジュアルが出てくる前に世に放っておきたい本です。どういう怯え?

とにかく実質丸々1年ぶりのイベント現地参加なので、なにかしら新刊はもって行けるようがんばります。既刊はたくさんあれど、せっかくイベント参加するならなにかしら毎回新作は出したいという意地。

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それではかなり長くなってしまいましたが、ここまでお読みくださった方、ほんとうにこんなところまでわざわざありがとうございました…!

同人誌語り、していてかなり楽しく「原稿したい…!本つくりたい…!」という気持ちになれたので、また気が向いたら既刊か新刊でしてみたいです。

この副音声を少しでも楽しんでくださる方がいてくださいましたら幸いです。


では次回は8月インテで!
新しいなにかを出している予定なので、もしよろしければまた覗いていただけるとうれしいです。




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